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高経はははっと笑った。
それはそうだろう。
高経もそんな細かいやり取りを自分が覚えていたことに吃驚している。
三年前、麗葉は信太の森に経つ高経に、高経が戻って来なければ自分が頭首を継ぐまでだと言った。
本気か冗談かはさておき、麗葉なりの激励だったと高経は解釈している。
とにかく、その麗葉に高経は今と同じように「女は頭首になれないんじゃなかったけ」と答えた。
そして、こう続けたのだ。
「“女は頭首になれない。それこそ、頭首の嫁になることはできるだろうけど”」
麗葉は「そんなやり取りもあったかな」とばかりに一瞬空を見つめる。
それからはっと目を見開き、慌てて高経を凝視した。
その顔は生来の赤い肌を差し引いても、真っ赤に上気しているようだ。
「た、た、高経!そ、それは……」
「はっはっはっ。まあそういうことで、一つよろしく」
何がよろしくなのか。
高経はわざとらしく笑ってさっと手を上げると、「さあて、そろそろかなぁ」と御簾の隙間から外を窺っている。
その横顔が心なしか赤いのは夕陽のせいだけはないだろう。
麗葉は声を発することができず、ただぱくぱくと口を動かしていた。
「た、高経……っ」
「ん~?」
麗葉が呼びかけると、高経の背中がぴくりと緊張した。
「な、何で、だって、もっとしとやかな女が良いって……、そ、それに、オレ以外にも……っ」
動揺を隠しきれない麗葉が俯きながら、ごにょごにょと口籠る。
高経は「あ~」と頭を掻いた。
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