1097人が本棚に入れています
本棚に追加
白い狩衣、背中に流れる銀糸のように艶やかな黒髪。
その後ろ姿は華奢で、けれどどこか近寄りがたい神聖な空気を纏っている。
―― あなたは……。
水底に沈んでいたはずの感情が、じわりと清水のように胸に広がり始める。
真明はふらりと足を踏み出した。
―― あなたは…………誰ですか……?
一歩、また一歩と、地に敷き詰められた薄紅の花を踏みしめ、かの人物へと近付いて行く。
気がつけば、頬を涙がつたっていた。
――私は……私は、あなたを……
ずっと……。
手を伸ばす。
もう少しで、その肩に、その存在に触れる事ができる。
しかし、それは叶わなかった。
空間を割くように、方々から黒い帯のようなものが伸びてくる。
全く唐突に現れたそれらは、瞬く間に真明の全身に巻き付き、締め上げる。
(…………っ!?)
ギリ……ギリリ……
黒い帯が徐々に肌にめり込んでくる。
――ここに契りを。お前の血は元より私のものです。お前の全てを私に捧げなさい――
声がした。
男と女の声が重なり合ったような、奇妙な音声。
ざわりと肌を粟立つ。
――お前は今より私の“鞘(さや)”です――
(あ……綾と………)
契りを。
契りを交わした。
闇の底で朱く光る、あの妖神と。
自らの命を贄として。
そうまでしても、救いたいものがあったから。
黒い帯はしゅるしゅると真明の首に巻き付き、一気に締め付ける。
「………っ」
息が苦しい。
何とか逃れようと腕を上げ、自らを締め上げる黒い帯に触れると、それは人肌のような感触がした。

最初のコメントを投稿しよう!