記憶~独奏~

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記憶~独奏~

『出来損ない』 …いつからそんな烙印をおされたか、覚えていない…。 僕のヴァイオリンが不協和音を奏でた瞬間、『家族』の演奏が止まった。 背筋が凍って…掌が汗で濡れる。 上の兄達が、顔を見合わせニヤニヤと笑っている。 父が譜面を僕に叩きつける。母と姉は、僕を見ようとはせず、ピアノ再びを引き始める。 「…ごめんなさい」 父は立ち上がったかと思うと、僕を掴み、外へ放り出した。 父の目は、僕を正確にとらえることなく…そのままドアを閉じた。 まただ… しばらく、ドアの前に佇んでいたが、諦めるしかなかった。 外はいつものように雪が降っている。 泣きたくなるような、冷たさが足の裏から伝わってくる。 ヴァイオリンを抱えて、さ迷った末に街から少し離れた森についた。 枯れ枝を集めて、火を焚く、手をかざすと指先からジワリと体温が蘇った。 ヴァイオリンを構え、弓を這わせると、少しずつ視界が涙でにじんできた。 『出来損ない』 頭に『家族』の冷たい声が響く…きこえないように夢中でヴァイオリンを引いた。
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