3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
記憶~独奏~
『出来損ない』
…いつからそんな烙印をおされたか、覚えていない…。
僕のヴァイオリンが不協和音を奏でた瞬間、『家族』の演奏が止まった。
背筋が凍って…掌が汗で濡れる。
上の兄達が、顔を見合わせニヤニヤと笑っている。
父が譜面を僕に叩きつける。母と姉は、僕を見ようとはせず、ピアノ再びを引き始める。
「…ごめんなさい」
父は立ち上がったかと思うと、僕を掴み、外へ放り出した。
父の目は、僕を正確にとらえることなく…そのままドアを閉じた。
まただ…
しばらく、ドアの前に佇んでいたが、諦めるしかなかった。
外はいつものように雪が降っている。
泣きたくなるような、冷たさが足の裏から伝わってくる。
ヴァイオリンを抱えて、さ迷った末に街から少し離れた森についた。
枯れ枝を集めて、火を焚く、手をかざすと指先からジワリと体温が蘇った。
ヴァイオリンを構え、弓を這わせると、少しずつ視界が涙でにじんできた。
『出来損ない』
頭に『家族』の冷たい声が響く…きこえないように夢中でヴァイオリンを引いた。
最初のコメントを投稿しよう!