記憶~独奏~

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僕は思いつく限りの曲をひいた。 はじめは静かに聴いていた彼女も微笑んで手拍子をする。 彼女の叩くリズムが軽やかに夜空へ響く。 今まで人前で演奏したことは何度かあったけれど、こんなに楽しかったのはいつ以来だろう…もしかしたら、はじめてかもしれない。 ヴァイオリンは、ますます陽気にうたう。 辺りは少しずつ白んできた。 最後に弾いたのは、この国に古くから伝わる舞踏曲「花舞」。 この街から南に行った王都で、5年に一度催される祭のハイライト…民衆と王族が入り乱れ、この曲にあわせて踊る。 僕達は向かいあわせて立ち上がり、おどけるように会釈をした。 僕は大人達がするように、かぶりもしない帽子を取って胸にあて、腰を軽くおる仕草をする。 彼女はスカートの端をつまみ、体を沈めるような会釈をする。 枝から落ちた粉雪がキラキラと輝く。 ヴァイオリンは、ゆっくりとうたいはじめて、少しずつ加速していく。 曲にあわせて彼女がくるくると踊る。 わざと曲に間を置いてみたり、僕が弾いた即興のフレーズにあわせて、彼女が手と足でリズムを刻んだり…、はじめて出会った事が嘘のように、僕達は目と目で饒舌に語った。
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