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「さ、どうぞ」
通された部屋は、寮の一室だった。
「ここ、もしかして…」
「隼人の部屋です。そしてこれは隼人からあなたへ」
「私に…?」
手渡された物を見ると、ひとつはアルバム、もうひとつはノートだった。
アルバムを開くと、スーツ姿の隼人が写っていた。
最後に会った時よりもずっと大人びて、私の知らない隼人の顔だった。
「成人式の写真です。いつかあなたに成長した姿を見てもらいたい、と言っていました」
そしてもうひとつは…
「実は隼人、奇跡的に少しだけ、目が開き、手が動かせたんです」
ノートを開くと、ベッドの上で一生懸命書いただろう、震えた文字が目に飛込んできた。
『あいつ、まだケー番変えてないのかな。
もし、変えてなかったら 声 聴きたい』
「その直後に体調が悪化し、そのまま帰らぬ人となりました」
「…変えてないよ…変えてないから…声、聴かせてよ…っ…」
私はアルバムとノートを抱きしめながら、涙を流した。
桜の香りが、そっと頬をかすめた。
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