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そんな些細な日常がいちいち愛おしい
『いつもの教室で、』
「お前ホントに馬鹿だよな」
「うっさいな!」
ざわざわと騒ぐ午後の昼休み。
茶髪のショートカットがサラサラ動くたび、逐一目をうばらわれる。綺麗、だなんて、ぜったい口にはできないんだけれど。
「このポテチの袋が駄目なのっ!
こんなとこにある開け口を見つけられるわけない!」
「見つかるっつの。」
「だから自力で破ろうとしたら、破けたんだから!」
私は悪くないっ!と言って床に散らばったポテチを一枚一枚集めてく君。文句を言いながらも、ちゃんとやることはやる、しっかり者。
そんなところが、大好きで――。
「女ならポッキーとか食えよ」
「私はポテチが食べたかったの!」
愛しくて、つい一緒になって拾ってしまう。
それに気付いた君は、一瞬照れたように笑ったあと、ありがとう、と笑って見せた。ちょっとだけ、鼓動が早くなるのは仕方ない。(ふいうちだ。)
あぁ、こういう時の、ふとした笑顔も好き。
いつの間にか、ばらまいていたポテトチップスを全部拾い終わっていて、ふぅっと息をつく。もったいないな、なんて今はどうでもいいはなし。
「いつもね、」
「うん」
急に君が言葉を発した。
なんとなく、いつもと違う雰囲気にドキドキしてしまった。なんだかなごやかで、でも、なんだかとてつもないぐらいに切ない、ような、そんな感覚。
「いつも、文句言いながら私がドジしたら手伝ってくれるよね」
机には座らないけど、もたれ掛かって空を見上げる君。
―ああ、綺麗だ。
「そういうさ、素直じゃないとこが、大嫌いで」
ふふ、と笑って言う君の笑顔が、ありえないぐらい無邪気で、透明で、まぶしかった。愛しい、そう言われているような、そんな感覚。
やばい、やっぱ大好きだ。
「今は、そういう不器用なとこが好き」
ためらいもなく君はそう言い放つと、合っていた目線をすっと外して、窓のそとを眺めた。いつだって、追い掛ければ追い掛けるほど、君は離れてくのに――。
それでも君から、離れられなくて。
「そんなの俺もだって」
俺も窓のそとを眺めながらそう言うと、君はハッとした表情を見せて、また俺の方を眺めた。
「俺も、お前のこと好きだからさ」
―end―
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