雨の中で、(切)

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すべてが消えてもいいとさえ思った 『雨の中で、』 「もしもし。」 長かった電話のコール。 ようやく出たと思ったら、また妙にそわそわとしていて、なんとなく、アイツと居るんだと思わせられる。嘘も誤魔化しすらも、下手くそ。 「今平気なの?」 平気なわけない、そんなこと分かっていて聞いてみる。苛々しながら煙草に火をつけると、煙がふわふわと空にまじわる。道端で雨宿りしながら女に電話して苛つくなんて、相当情けない男。 しかも会うのを即否定されて、泣きたくなって、でも強がりたい。そんな変な気分になった。 「そりゃ旦那の方が大事だよな」 皮肉をこめて言うと、君に素直に「ごめんなさい」と謝られて、余計に苛ついた。そういう素直で女らしいところを好きになったはずなのに、こういう時は無性に腹が立ってしまう。 やさしいところが好きなのに そのやさしさがとてつもなく痛くて―― それでも別れられないのは、俺が君に依存していて、そして俺も、君よりずっとずっと、君に依存しているから。本当は、君に旦那がいようが何がいようが関係ない。 そばにいたい、それだけ。 「いいよ別に。最初から期待してない」 受話器の向こうで君が傷ついたのが分かった。でも今日は謝らない。謝りたくない。こっちだって傷ついてんだ。君だけじゃない。俺だって、痛いんだから。 携帯の電源ボタンをオフにする。馬鹿みたいにひねくれた思いが何重にも重なってゆく。いつだって、俺は君より上でいたい。じゃないと、不安で不安で押しつぶされそうだから。俺よりも、君が俺を好きになればいい。 余裕なんて、なくなっちまえ。 きっと、この恋に終りはないだろう。俺が終止符を打たない限りは。 きっと君からは別れを切り出せないから。君も俺と同じ、きっと依存しあって支えているようなものだから。別れなんて、当分は見えないだろう。 「…教師なんて惚れるんじゃなかった」 煙草の煙は、雨によってかき消されていった。 ―end―
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