鬼と狐と私

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「茨木先輩、酒呑先輩があぁぁぁ!!」 「酒呑、上手くいったのか?」 「バッチリ。これで俺は伽羅のモノ」 『言っておくが、要の契約は我が行っている』 誰1人、私の心を慰めてくれる妖怪は居ませんでした。 多分、期待しても無駄な事かも知れない。 「酒呑と契約したのだから、俺とも契約して欲しい」 「お断りします!! 夜琥だけで大変なのに、茨木先輩も混ざったら困る!!」 「じゃあ、俺はOKなワケね」 「同じくダメ!!」 夜中の公園。 初めて夜琥と出会った場所からは、それほど離れていない。 「ええ~、伽羅冷たい」 「酒呑、伽羅はいきなり妖を従えたのだ。慣れるまで時間が」 「必要ありません!! 妖怪は夜琥だけで十分!!」 私の鋭いツッコミに、茨木先輩はため息を吐く。 ……何? そんなにマズイ事を言った? 「こんなじゃじゃ馬な『伽羅』は初めて見た」 「歴代の『伽羅』はお姫様系だったからな」 『我も名を聞くまで、得心がいかなかった』 悪かったね。 どうせ私はやんちゃ系ですよ。 『さて、戯れはそろそろ止めるか』 「ああ。時刻も丁度。夜の国の扉が開く」 「俺が先に行く。酒呑と狐は伽羅を守れ」 そう言って、茨木先輩は手のひらを目の前に突き出すようなポーズをする。 そして突然襲ってくる、頭が割れそうなくらいの耳鳴り。 思わず耳を押さえた私は、3人を見る。 パッと見た限り、特に異常は見られない。 やっぱ、人間と妖怪じゃ違うか。 「では、唄う」 そう言って、茨木先輩は口を開く。 口紅を塗ったような紅い口元が、綺麗だと思った。 闇よ闇よ、常夜の国よ。 閉ざされた扉を開きませ。 全ての光を飲み込んで。 我らに安息と絶望を。 永劫の繁栄と衰退を。 闇よ、闇よ、常夜の国よ。 どうか我らを通らせませ。 「う、そ」 「ここを潜れば、不夜城だ」 茨木先輩が唄うように呪文を唱えた後。 目の前に2枚扉が現れた。 細かい彫刻が丁寧に施されていて、何種類もの宝石が埋め込まれている。 「これが……」 「不夜城の入り口だ。正確には茨木が作った道」 ポカンとしている私に、酒呑先輩は楽しげに笑った。 「茨木先輩が?」 『不夜城は入り口が無い。入り口を作った者だけが出入りを許される』 夜琥は扉から目を逸らさずに言う。 怪しいといえば怪しい扉だけど、茨木先輩が作った道なら安心だと思うんだけど。 さて、いよいよ妖怪の世界へ突入です。
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