不夜城→side妖

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『誰だ?』 「狐は知らないのか?」 「この女、有名な鬼だぜ?」 『何?』 「マジで知らないんだ。狐として失格じゃねぇか?」 酒呑が夜琥をからかうように言う。 その側で、さり気なく茨木童子が頷いて酒呑を認める。 夜琥の短い堪忍袋の緒が、プチッと音を立てて切れた。 『だから鬼は嫌いだ!! 何故、隠す!!』 「あ、キレた」 「吹っかけたのは酒呑だろう。俺に責任は無い」 一人ブチ切れる夜琥に、2匹の鬼は冷静に受け流す。 狐はプライドの高い生物。 妖というポジションに居ながら、神と同等の役目を果たす。 故に大人しい狐は少なく、夜琥のような傲慢気味な狐が多い。 「夜琥はんは、初めてどすか? なら、自己紹介をせないと」 女は着物の袖で口元を隠しながら、小さく笑った。 仕草は可愛らしい。 だが、不信感が消えない。 「名は紅葉と言います。以後お見知り下さいまし」 『我は夜琥。鬼なら知っているだろう?』 「ええ。人間を守る、愚かなモノ」 棘のある言葉に、夜琥は反応する。 紅葉は相変わらずケラケラと笑っているだけだ。 『何が言いたい?』 「伽羅の力を使わずに、どうして伽羅を守ろうとしはるのか。それと、伽羅との因果関係を知りたいのですわ」 紅葉はいきなり本題を持ちかける。 遠回しに表現するのでは無く、直球で夜琥と話すつもりらしい。 「教えて下さいまし。名も無き神の使い様。貴方は何を守ってはるのです?」 『それを聞いてどうする?』 一瞬、紅葉が固まる。 それは彼女の中にある『何か』と葛藤しているようで。 掴み所の無い彼女に対し、夜琥はますます不快感を露わにしてく。 「……ウチは、伽羅を利用したい。伽羅の力があれば、鬼が立ち寄れなかった世界に行ける」 『それが己の望みか?』 「そうどす」 紅葉の告白。 その言葉を切り捨てたのは、他でも無い、夜琥だった。
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