夏祭りと狐

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喋る狐なんて、絵本の世界の話かと思っていた。 でも現実世界で、喋る狐……しかも妖怪に遭遇するとは。 世の中って広いね。 『で、貴様は我をどうしたいのだ?』 「失礼な!! 私には入谷伽羅という素晴らしい名前が」 『なるほど。伽羅か』 「ちょ、話ぶった切らないでくれない?」 私のセリフを無視して、夜琥は納得したように言う。 この狐、かなり俺様系だ。 一部女子に好まれる類とみた。 『先程、伽羅も同じ事をしたではないか。因果応報だ』 「なんか腹立つ!!」 『同じセリフを返そう』 今更だけど、気まぐれで妖怪という狐を助けなきゃ良かった。 ……あ、夜琥が元気になったんだから、私の目的は果たされたじゃん。 「私は夜琥救出作戦を完了したんで、家に帰るね。夜琥は神様の所に帰ったら?」 『神は居なくなった。社には戻れぬ』 「神様が居なくても良いじゃん」 『それが出来ないから、我は困っている。そもそも人間が約束を守れば、こんな事にはならなかった』 「……じゃあ、ホントに宿なしノラ狐?」 『簡単に言えばそうだ』 急に会話が途切れる。 正直、なんて言ったらいいか分からない。 人間が約束を守れば、夜琥はホームレスにならずに済んだ。 そう考えると、簡単に『頑張れ』とは言えない。 そんなシリアスな気分でそう思っていると、お母さんの声がエコー混じりで聞えてくる。 多分、マイクを使っているのだろう。 間違いなく、後で説教されるな。 『伽羅、呼ばれているぞ』 「知ってる。でも行けない」 『それは同情か? 無駄だ。人間は我をすぐに忘れる』 「でも」 『まあ、町の代表者として詫びたいのなら、話は別だが』 あれ? シリアス展開、ぶち壊し? 急に夜琥の背後が、黒いオーラで包まれた感じがする。 「夜琥?」 『我を言魂で縛ったのだ。それなりのオトシマエは必要だな』 「は?」 『知らないのか? 名を与えられた妖は、名を与えた者に従わなければならない』 「知るハズ無いでしょ!!」 『もう遅い。入谷伽羅。我を従えよ』 フンと鼻を鳴らし、夜琥は堂々と言った。 どこか楽しげに見えるのは、絶対私の見間違いじゃない。
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