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私には生まれた時から父がいない。
病気で死んだとか、事故にあったとかじゃない………………“捨てられた”と母は言った。
だけど母はそれでも父を愛していた。
愛していたから母は幼い私に何度も何度も言い聞かせた。“お父さんを恨まないで”“お父さんを悪く言わないで”、と。
言わなくても私は恨まないし、悪口もいわない。
だって一度も父の顔をみた事がないのだから。
みた事も会った事もない父を私は悪くは言えない。
母にそれが伝わったかどうかは今ではもう聞けないからわからない。
だって私が10歳になった時に天国へ行ってしまったから。
突然だった。実感というものが何一つわかなくて、涙はすぐに出なかった。
肉親という大切なものを失っても、私は 寂しくなかった。
独りじゃなかったから。
だって私にはあの人がいる。
家族のような兄のような、大事な大好きな人。
八歳の頃に、その人は突然家の隣に引っ越してきた。
一人の都会人が…
ここは都会とは逆の田舎。
田舎でも更に田舎で、緑が多い所。
あるのは山と田んぼと畑と長い道と沢山の緑。
そして少ない民家と少ない人口。
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