第一章

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しばらくその場で立ちすくんでいると、どこかで音が聞こえた。心臓が一度大きく飛び跳ねた。先程まで静寂だった廊下にその音が小さく響く。 音というのは、何かが落下した音。どうやら他にも人がいるのだろう。僕は音がした螺旋階段の方へ、ゆっくりと足を運んだ。 一、二歩進んだ辺りで立ち止まり、僕は自分の部屋を再び見る。部屋の位置を覚えておきたかったためだ。二○三号室。 螺旋階段に行くに釣れて、数字が小さくなる。つまり、僕の部屋を起点に左手は二部屋存在し、右手の突き当たりまでは何部屋か存在する。 二○二号室、二○一号室の横を通過する。通過する時に耳を傾けたが、何も聞こえなかった。もしかしたら、防音がなされているのかもしれない。 二○一号室から先は途中に螺旋階段を挟み、先は反対側と同じように少し廊下が続き、突き当たりになっている。 僕は螺旋階段には足をかけず、少ししゃがみ、木製の手すりの間から下方に視線をゆっくり下ろした。手すりに突っかかりあまりよく見えないが、居間と玄関のある一階には人がいた。 白いテーブルクロスが引かれた大きな焦げ茶色の机に、二人の大人が座って、何か話している。彼等の側に、ガラス製のコップがあることから、先程の音は恐らくこれが落ちたのだと解釈した。 僕は見つからないように、慎重に彼等の会話に耳を傾けたが、一向に聞こえない。僕が諦め、ゆっくりと立ち上がろうとした瞬間、彼等がちょうど上を見た。
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