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「連中は?」
土木が言う。
「部屋に入っちまったようだな。仕方ない。誰だって疑心暗鬼に陥るさ」
彼等の話から何も見えてこない。どうやらまだ他に人がいるようだ。そして、彼等は今疑心暗鬼に陥っている……。なにがあったんだ?
「あなた達は……?」
僕は勇気を振り絞って尋ねた。狐は話を中断された怒りからか、ギロリと鋭い眼光を僕に向ける。
「てめぇに言う必要があるか?まずはお前から言うのが礼儀ってやつよ。お前は何者だ?」
彼は賢い。自分からは語ろうとせず、相手に全てを語らす技術があるように思えた。安易に彼に嘘は付けなさそうだ。
「僕は……藤原裕太。別に他に何も語ることはないですよ……」
とりあえず様子を見てここまで話す。案の定、狐は納得いかない様子で顔をしかめた。
「名前なんてここじゃ意味ねぇんだよ。お前は二○三の住人ってことだけしか今んとこ知らない。どうやってここに来た?」
狐の名前は聞く意味がなさそうだった。教えてくれそうにない。そして、彼の質問に対して、必死に考えるが答えは出せなかった。
「知らない……。何かも知らないんだ。なぜここにいるか?理由も何もかもわからない……」
土木の男はふっと笑って、狐の顔を見た。狐も鬱陶しそうな眼差しを僕に浴びせる。使いものにならないって意味だろう……。
「とりあえず連中を集めて話した方がよくないか?」
狐は顎をさすりながら、何か考えている。彼は唸りながら考えた挙げ句、頷き、僕の横をスタスタと通り過ぎて行った。
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