第一章

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狐は二○三号室から先にある部屋を全てノックしていく。しかし、突き当たりにある最後の部屋だけは叩かなかった。それに対して、土木の男は訝しがる様子はなく平然としている。 「おい!早く出てこい。てめぇら自分だけ助かろうって思っているようだがな、そうはいかねぇよ。なんなら俺が殺してやるからよ」 狐の声が廊下に響く。しかし、二○三号室から後の部屋は開こうとしない。狐は苛立ちを隠せない様子で、扉を蹴り始めた。 渋々っといった様子で蹴られた部屋の住人が姿を現す。二○四号室の住人で、貧相な弱々しい体型、そして自信なさげな表情をした三十前後の男だった。 その男に対して、狐は胸ぐらを掴み吠える。 「なんで出てこねぇんだよ?あぁ?」 貧相な男は、顔を俯き震えている……。人生そのものを嫌ってそうな様子で、ネガティブなオーラが漂っている。見かねた土木の男が狐を宥めた。 「めんどくさいことになるぞ、我慢しろ」 賢そうに思えて意外と抑制が利かないのか、土木の男の方が狐より冷静だった。 狐から解放された貧相な男は、僕の顔を見て、怯えに似たものを表情に表した。それを僕が払拭する。 「新しい住人です……。安心してください。犯人じゃないので」 そう言うと、貧相な男は安堵の表情を浮かべ、土木の男の横を通り抜け、後ろに下がった。 狐のさっきの騒ぎに、呆れてか、次々と扉が開いていく。一人、一人観察するが年齢層は様々で上は四十半ばから、下は二十まで。 僕がどうやら最年少のようだった。
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