第一章

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二○五号室の住人は二十代半ばの女性だった。丸い銀縁フレームを掛けた女性で、女性にしては少し背の高い、知的な印象を持った整った顔立ちをしていた。 そして、二○六号室は男性。少しお腹が出た三十過ぎのおじさん。どこかの医療関係に勤めているのか、白い制服を着ている。社交的な顔立ちだった。 次に二○七号室。四十半ばの女性で、恐る恐るドアから、廊下をのぞき込むようにして出て来た。専業主婦っといったところか、彼女もまた何かに怯えている……。丸っこい顔をした人の良さそうな女性だった。 これだけか……っと思ったら、狐が再び廊下の突き当たりまで進み、突き当たりから二番目のドアをノックする。まだいるのか……? 「さっさと顔出せよ。てめぇが一番怪しいのは象徴だがな」 クックっと冷たく笑って、彼はドアを蹴りだした。すると勢い良くドアが開き、その反動で狐は後ろにふっ飛ばされた。 中から出て来た人物は、不思議な雰囲気を持った長身の男性だった。人付き合いを嫌うような無口な印象を受ける。ふっ飛ばされた狐は、廊下に倒れながら彼を睨むが、怯む様子もない。 彼が一番堂々としている。狐も彼には困っているように思えた。 全く歯が立たないことを実感したのか、狐は立ち上がり、僕たちの方をすり抜けて、後ろを向きながら手招きをした。 僕たちは顔を見合わせどうしようかと逡巡していると、土木の男が一言。 「来い」 仕方なく、土木の男の後に僕たちは続いた。
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