気まぐれのプレゼント

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それから和史はパスピエが入ったCDを探したが見つからなかった。 「…あんまり有名じゃないマイナーな曲なのかな…」 何回目の溜め息か。 「おい」 「?兄さん」 和史は驚いた。 あの時もそうだったが和寿の方から和史に声を掛けるのは珍しい事だ。 あまりの嬉しさに和史は和寿に駆け寄る。 「何兄さん!」 「……」 「……兄さん?」 「これを…」 そう言って渡された小さな包装紙に包まれた薄いものに目を見張る。 大きさはCDケースくらいのものだった。 「えっと、これは?」 「お前にやる」 「え」 それはプレゼントというものだろうか。和寿が和史に? 「あ…有難う…」 あまりの嬉しさに涙が目の縁に溜まる。 ドキドキしながら包みをあけると、それはクラシックCDだった。 「これ…」 「偶然店で見つけた。お前が気に入っているパスピエも入っている」 「わざわざ僕の為に?」 「………」 CDケースの表面にポトポトと大きな雫が落ちる。 「有難う…有難う、兄さん」 「礼を言われるような事はしていない。気まぐれだ」 「でも嬉しいよ。有難う……僕、これ大切にするから」 「……そうか」 静かに笑う。 馬鹿な奴だと心底思った。 気まぐれなプレゼントに気まぐれの笑み。 それなのにとても嬉しそうで… 和寿は愉快で堪らなかった。 こんなもので涙を流す弟に……… .
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