空白の心

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「ふぅ~」 ずれたフレームを上げる。背中を伸ばし、肩を軽く揉む。 「コーヒーでも飲むか」 大学に提出するレポートをようやく終わらせ、椅子から腰を上げようとした時、階下がざわついている事に気付いた。 「なんだ?」 部屋を出た時、父の悲痛な声が耳に届いた。 「なっ!和史が。本当ですか先生っ」 取り乱す父を見るのは初めてかもしれない。だから和寿の足は自然と父の方へ向かった。 「はい…はい。すぐ妻と向かいます。はい。それでは…」 受話器が置かれると父は頭を抱えてうずくまった。 よっぽどの事があったのだろう。 何か和史がやらかしたのか。しかしそれにしては反応が変だ。怒りを覚えているというよりも悲しみを覚えている方に近い。 父が和寿の存在に気付く。 「和寿…」 「どうかしたのか、父さん」 「……和史が…」 「アイツがどうかしたか?」 「和史が…事故に」 「……」 あぁ…それでか。 父がこんなに慌てているのは。ようやく理解した。 「あぁ…なんて事だ」 「父さんらしくないな。それくらいで慌てるなんて」 「っそれくらいだと!」 瞬間、強い力で胸ぐらを掴まれた。 「息子が事故にあったんだぞ!取り乱すに決まっているだろっ」 「……」 じゃあ、本物の息子じゃない自分が事故にあったら、その時も同じ反応をするのか? 和寿は心の中で思った。
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