空白の心

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「どうせ事故なんてそんな大した事ないんだろ?落ち着けよ」 「っ、和寿っ!!」 「くっ」 バキッと鈍い音と共に頬に痛みが走った。横から母親が声を上げて父を押さえる。 「あなたっ!」 「っ…」 歯ぎしりしながら鬼の形相で和寿を睨みつける。それがとても面白い顔で、和寿は自然と笑みがこぼれた。 「事故で助かる確率なんて運だ。助かれば助かる。助からないなら助からない。他人が嘆いていても何も変わらない。無駄な涙を消費するだけだ…」 「他人ではないっ。和史は私の息子だ」 「そうだな。でも結局は他人だろ」 和寿も父を睨みつける。 「お前は…。前々から言いたかった。何故お前は和史を毛嫌いする。お前達は兄弟だろ。和史はお前を慕っているがお前は和史を一方的に嫌っている。…何故だ?」 「理由なんか、ない…」 理由なんか忘れた。いや、始めから理由なんかなかった。 「俺はアイツが生まれた時から嫌いだった…それだけだ」 「お前っ…」 「それにここは居心地が悪い。早く出ていきたいんだ」 「和寿…お前っ」 「どうせ俺はあんたらの本当の息子じゃないからな」 「っ…」 息を呑む父と母。 「お前…何故それを…」 「知らないと思っていたのか。俺はずっと昔から知ってたさ。俺は捨て子だって」 「……」 「でも一応俺が生きてこられたのはあんたらのお陰だ。だから和史が高校卒業するまでここにいてやるよ」
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