空白の心

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吐き捨てるように和寿はリビングへと向かった。 「あなた…」 母が父の肩に手を置く。 「……病院へ行くぞ。アイツは駄目だ」 「……」 父の声は小さかったがちゃんと和寿の背中に届いていた… ******************* 病院の匂いがした。 ここは個室の病室。気が付けば和史はベッドに寝かされていた。 腕には点滴の管が刺されていた。 無音の病室で突然ドアが開く音を耳にする。 「誰?」 「私だ和史。母さんも来たぞ」 「父さん」 父の声にほっと安堵の息を吐く。 しかし父と母だけに和史は躊躇いがちに父に問うた。 「父さん…兄さんは?」 「…和寿は、その…外せない用事があったらしくてな」 「そうなのよ。ごめんなさいね和史。本当は三人でお見舞いに行きたかったんだけど」 「ううん。仕方ないよ。兄さんだって大変なんだから。僕の為に時間使う事ないよ」 「しかし…」 「父さん、兄さんを叱らないであげて」 和史の言葉に父は口を噤む。 「そうだわ和史。あなた…その目はどうしたの?」 母の言葉に父はハッと和史の顔を見る。 そうだ、和史は何故か両瞼を包帯で覆い隠していたのだ。 「あっ、心配しないで。事故の時ちょっと傷付けたみたいらしくて、傷が塞ぐまで暫くの間包帯を巻いていないといけないんだ。父さんと母さんに傷見せたくないし」 「そう…」 父と母は胸を撫で下ろした。
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