空白の心

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暫くの間、和史は父と母と時間を過ごした。 病室を出ると同時に、担当ナースが両親に声を掛けてきた。 「ちょっと宜しいでしょうか?」 「…は…はい」 何か嫌な予感が二人の胸に過ぎる。 そしてそれはすぐに現実になった。 医師から、残酷な言葉を告げられた。 慌てた様子で家に帰ると、父は真っ先に和寿の部屋へと向かう。 「和寿っ」 ドアをノックさせる。 「お願いだ。開けてくれ!和寿」 しつこくノックする。 「和寿っ」 「そんなに呼ばなくても開けるよ…」 ドアが開かれると、父は突然土下座をしてきた。さすがの和寿も予想外の事で息を呑む。 「お願いだ和寿!一度だけ…たった一度でいい、和史の見舞いに行ってくれないか?」 「…父さん、俺がアイツを嫌っているのは知っているだろ」 「お願いだっ……お願いだ…一度でいい…」 その声は次第に涙と混じって紡ぎ出される。 何故そこまで行かせたいのか…… 「何か病院であったのか?」 「………っ」 「医師に何か言われたのか」 「……だ」 「?」 和寿は父の口元に耳を寄せる。やがて父の言葉に大きな動揺が走った。 「……和史の目はもう、光が戻らないんだ……」 何故だが、ぽっかりと胸に穴が開いたような、やるせなさを感じた。 .
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