変わらぬ眼差し

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「お前の目には光はもう二度と宿らない」 「え…」 短い悲鳴に似た声が和史の口から発せられる。 そんな弟の気持ちを無視して和寿は残酷な言葉を口にした。 「お前は“失明”してるんだよ、和史」 「う……そ」 「……」 無言は肯定を意味する。和史は途端焦りだした。 縋るようにどこに和寿がいるのかもわからないのに腕を一杯に広げて兄の腕に掴もうとする。 「嘘…だよね?兄さん……失明って、嘘…だよね」 「本当だ」 「っ…」 伸ばされた手が虚空をさまよい、やがて落ちる。しかしその衝撃で躯がぐらりと揺れ、和史はベッド脇から落ちてしまった。 「っ…」 「いたっ…」 点滴の管が外れ、頭に巻いた包帯が緩み、解かれる。 瞼の上の痛々しい傷はまだ残っていた。 「あっ…」 絶望の声。 瞼を覆うものが解かれたというのに和史の視界は闇だった。 何もない。 何も映らない。 何も存在しない。 永遠の闇… 目尻に涙が溜まる。しかし視界が真っ暗で、涙で歪む事もなくて。 「あ…っあ…あぁ…」 一人泣く弟の姿を、和寿はただ見ている事しか出来なかった。 .
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