変わらぬ眼差し

5/6
前へ
/32ページ
次へ
「この前はごめんね。取り乱しちゃって」 「いや…」 謝るのはおかしい。この場合悪いのは自分だろう。 「具合はどうだ」 「良好だよ……て、また同じ事言ってる、兄さん」 「そうか」 「そうだよ…あはは」 何故笑っていられるのか。 事故にあって、失ったものは多いのに、何故元気でいられる? 「無理して笑っているか」 「え?無理してないよ。どうして」 「いや…」 ずれたフレームを中指で持ち上げる。 「あ…兄さんにずっと渡したいものがあったんだ」 「渡したいもの?」 「うん、でも事故の時に粉々になっちゃって。多分花瓶の横に潰れた箱が置いてあると思うんだけど」 和寿は花瓶に目を向ける。すると確かに潰れたものが置いてあった。 そっと手を伸ばすと粉々のガラスと小さな家、小さな木。白い粉のようなものがあった。 「これは…」 「CDのお礼にスノードームをプレゼントしようと買ったんだけど……あはは、これじゃ部屋に飾る事すら出来ないね」 「……」 無言でそれを見つめる。 和史はその無言が怒っていると捉えたのか涙声で小さく呟いた。 「あーあ…、また…兄さんに嫌われちゃった…」 「?和史」 「…おかしいな。なんで上手くいかないんだろう。兄さんに喜んで貰おうといつも頑張ってるのに空回りで……本当…っ、なんで僕……こんなに駄目なんだろうな…っひっく…」 「……」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加