代わり

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「もう少しで退院出来るみたいなんだ」 嬉しそうな弟の声に和寿は“そうか”と頷く。 あれから自分でもわからないくらい毎日和史の見舞いにいった。 「兄さん最近毎日来てくれるよね。嬉しいな」 「そうか…」 花瓶に新しい花をいける。 「兄さん」 「なんだ」 「僕、兄さんの顔忘れないから」 「?」 「見えないけど、ちゃんと兄さんの顔、記憶にこびりついている。だから忘れる事はないよ」 「……そうか」 「でも…、寂しいな。何も見えないと…」 「……」 窓を見ると雪が沢山降っていた。 今夜は積もる。 明日になったら雪だるまやかまくらが作れるだろう。 雪ウサギなんて何十個も作れる。 雪を見ながら無意識に言葉が呟かれる。 「今は雪が降っている」 「?」 「沢山の雪だ。止む事なく、まるでスノードームのように降り続けている」 「兄さん?」 目に掛かった前髪を軽く直してやる。 何故か苛立ちがなかった。 「俺がお前の目の代わりになってやる」 「え…」 「お前が見えないもの。見たいもの、全て俺が見て…それをお前に教えてやる」 「兄さん…」 「だから、お前はいつも通り元気でいろ。その変わらぬ眼差しを、俺だけに見せろ…」 「っ!?」 自然と唇が和史の唇を塞ぐ。 .
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