何も知らぬ眼差しで

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あの目が今日も変わらず和寿を見てくる。 「兄さんって頭がいいだけじゃなく料理も出来るんだね」 「……」 今日は父は出張、母は友人と買い物で遅くなるらしく、家には最悪にも弟と二人きり。 腹が減ったので軽くオムライスを作ろうとキッチンへたったら、どこからともなく和史が現れた。 「ふわふわの半熟、凄いね。僕半熟好き」 誰も聞いていない。 無視したまま出来上がったものをお皿に盛りつける。 当然一人分しか作っていなかった。 「兄さんのオムライス美味しそう…」 「……」 「少しだけ食べたい、な」 「………」 図々しい奴。 しかしあげなければ食べ終わるまでじっと見られているかもしれない。 それは嫌だった。 深い溜め息を吐くとスプーンですくった一口を無言で和史の前に出す。 「え、な…何?」 「食いてぇんだろ」 「い…いいの」 「……」 何も言わず更にスプーンを突き出す。 和史は嬉しそうな顔を浮かべながらスプーンを受け取らないままそれを口に運んだ。 まるで小鳥に餌をあげてるみたいで嫌気がさす。 「美味しい!」 「……」 和史が口に運んだスプーンを和寿は見つめる。 「一口だけなのに口の中がふわふわだよ。兄さん、料理人になれるよ」 このスプーンは使い物にならない。 「おかしいな。一口じゃ普通物足りないのに、凄く満足だ!一口でお腹が満たされるなんて」 「……」 「御馳走様兄さん。オムライス有難う」
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