何も知らぬ眼差しで

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そう言ってリビングを出たと同時に和寿は流し台にスプーンを放り投げた。 あの目は、見ているだけで苛立ちを招いてくる。 「兄さん」 「っ…」 まただ。鍵を閉め忘れた己が悪いが、また和史がノックもなしに勝手に入ってくる。 「えっとね、あのさ…こんな事言うと驚くかもしれないんだけど」 「…なんだ」 「兄さんと一緒に寝ていいかな」 「は?」 突然の不意をつく発言に目を見開く。 「ここ最近夢見が悪くて」 「だから俺と寝たいと?」 「うん」 「駄目だ」 キッパリ断ると和史が食いついた。 「な…なんで」 「お前年いくつだ?その年で成人した男と一緒に寝るのはどうかしているぞ。ガキならまだしもお前は高校生だろ」 「そ…そうだけど、久しぶりに兄さんと寝たくて」 「俺は寝たくない。それに久しぶりもなにも俺はお前と寝た事はない」 「あっあるよ!僕が小さい時とか」 「それはお前が勝手に人のベッドに入ってきたんだろ。それは一緒に寝たとは言わない」 「っ…」 馬鹿馬鹿しい。何故嫌いな人間と一緒に寝なければならない。それなら同じ空気を吸っている方がマシだ。 「とにかく俺はお前とは寝ない。勝手に入ってこないよう、鍵もつけとくからな」 「兄さん…」 悲痛の声が背中ごしに届く。和寿はそれを無視してパソコン画面に躯を向けた。
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