何も知らぬ眼差しで

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いつもより早めの就寝。 相当日頃の疲れが溜まっていたらしく和寿は直ぐに眠りの淵へと落ちていった。 それから何時間たっただろうか、ふいに近くで身じろぐ気配を感じて目を覚ます。 「なん…だ」 近くに置いてあった眼鏡に手を伸ばし、半分寝ぼけながらそれを掛けると、やがて目の前のものに嫌でも完全に目を覚ました。 「なっ…」 そこには躯を丸めて眠っている和史がいた。 夢でも見ているのかと思ったら、夢ではなさそうだ。 「なんで…」 鍵は閉めた筈だ。それなのに何故こいつがいる。 「ん…兄さん」 「っ…」 こいつは… 無意識に両手が和史の首もとに伸ばされる。 「夢にまで俺を縛り付けるのか…」 軽く力を加えるとすぐに和史は苦しみ出した。 「っ…ぐ…ぅ」 「お前の存在が憎い…」 「っ……く…」 更に力を増す。 「お前がいると毎日が苦しいんだよ」 「…はっ…かはっ…」 その時、生理的に涙が流れた和史に、一瞬和寿は首を絞める手を緩めた。 「げほっげほっ…」 空気を求め和史は息を吸った。しかし首を絞められたというのに十分な酸素を肺に取り込むと、再び和史は眠りの中へと入っていった。 それを見て和寿は笑う。 「有り得ねぇ…」 しかし一番有り得ないのはアイツの涙に一瞬でも動揺した己が有り得なかった… .
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