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頑丈そうな黒いその扉からは、微かに音楽が聴こえてくる。
『ヘェ~…一階に店持つなんて凄いねぇ!』
その店は、大きなビルの一階にあり、外から見ても箱の広さが分かる。
「あぁ~、ウン。系列でかいからねぇ。」
『そうなんだぁ。』
私は相変わらず扉や看板を見上げ、感心していた。
そんな私をよそに、一段と元気になった沙織は扉を握り、扉を開ける体制へと変わった。
「じゃあ、入ろ♪」
沙織が扉を開けた瞬間、微かに聴こえていたトランスが、爆音で流れていた。
思わず体が跳ねた。
「あははは、ビビり過ぎだし」
そんな私を見て可笑しそうに笑う沙織。
『笑いすぎだし』
爆音だろうなと分かっていても、ビックリするものはするもので。
一呼吸すると、改めて店内を見回した。
ブラックライトにレーザー…騒がしい店内は、まるでクラブに来みたい。
だけど、入口のすぐ側にある大きな水槽の中には、色とりどりの綺麗な魚たちがユラユラと揺れていで、クラブとは違う高級感も感じられた。
魚には、耳あるのかなぁ。
この爆音、ストレスじゃない?
そんなことを聞こえるはずのない魚達に心の中で話しかけた。
魚たちに見とれて、ぼーっとする。
「あ、沙織さーん!一昨日ぶり(笑)」
一人のホストが沙織を見ると急いで駆け寄ってきて、魚からホストへと視線を反らす。
「こっちでーす」
沙織とそのホストはほんの少し絡み、すぐに席へ案内された。
飲み放題の鏡月の緑茶割を頼んで、火をつけようとするホストに向け顔を横に振り、自分で火をつけると、煙草を吸った。
そして、ホストが飲み物やアイス等を取りに行く為に席を離れ、沙織と二人きりになった。
私はさっそく沙織に聞く。
さっきのホストが来た時、一瞬イサトかと期待したけど、沙織を“さん”付けして読んだことから、すぐに違うと分かった私は、沙織に近寄り耳元で聞く。
『ねぇ沙織、イサトは?♪』
私の質問を聞いた沙織は、キョロキョロと辺りを見渡す。
沙織の視線が、あちらへこちらへと動いたあと、
「あ、あれだよ♪」
沙織が笑顔を向けるその先に視線を向けると、背が高くて、小麦色をした肌がよく似合うホストが、こちらへ向かって歩いていた。
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