俺を呼ぶ声

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「……っ、はぁ…はぁ…」 痛みを堪え止めてた息を大きく吐き出す。 ドサッと膝を地につけた音がした。 暫く息を調えていた叶多だったが、ジャラ、という音と共に声を発する。 おそらく零也を見上げているのだろう。 「サンキュ、な……えっと…」 「零也だ。それより灯りつけろよ。暗くて敵わん」 「了解。…でもさっきも言ったけど驚くなよ?」 「そんなの見ないとわかんねぇよ」 「そりゃそうか」 では、と叶多が右手に力を込めるとボンヤリと中の様子が見えてきた。 「…こりゃまた面妖な…」 「誉め言葉として受け取っとくよ」 中性的な顔に苦い笑みを浮かべた叶多。 その頭には人のと言うにはかけ離れた獣の耳。 後ろにはふさふさとした尻尾。 左手にはまだ杭は貫通したままで、よくみれば一体化していた。 首には鎖が巻き付けられていてその先端には鉄球。 服はボロボロで特に上半身は意味をなしていない。 「…なんのプレイだ?」 「知らねぇよ。やった奴に聞いてくれ」 髪は地面について、それでもなおその長さをもて余している。 それでもはだけた上半身は明らかに男のもので… 「言葉遣い乱暴な子はいるし?一応期待してたんだがな…がっかりだ」 「悪かったな、女じゃなくて」 「そう思うなら今すぐ詫びてくれ」 「だから悪かっ…」 「腹かっ捌いて。今すぐ」 「オォォイ!!」 「嫌か?しかたない。介錯は任せろ」 「って何抜刀してんだよ!?」 「問答無用」 「ちょっと待てェェェ!!……チッ!」 本気で切りかかってきた零也に叶多は左手に刺さったままの杭を無理やり引き抜く。 カッ!という音とともに剣を受け止めた。 うまい具合に刺さったらしく杭からなかなか剣が抜けない。 叶多は杭ごと振り回すように零也から剣を奪い取ると手の届かない場所へ放り投げた。 「これで……ガっ!!」 突然顔面に拳がめり込み、衝撃に耐えきれず叶多は後ろに倒れ込む。 「剣を取られても拳がある」 「…何マウント取ってるんですか?」 「さっき言ったろう?」 そう言いながらにっこり微笑む零也。 だがなぜだろう… この笑顔を怖いと感じるのは… 鎖を引き寄せられて零也の整った顔が近くなる。 そしてその口からは信じがたい言葉が… 「これよりタコ殴祭を開催します」 「え、ちょ……マジで…?…ぎ……ギャァァァァァ!!」 ガスガスという鈍い音とともに本日何度目になるかわからない悲鳴があたりにこだました。
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