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彼は海賊だったのか。
菊がそれを認識したのは翡翠の瞳の彼に連れられて、港に泊まっている見たこともないほど立派な船を目にしたからであった。
「俺の後ろに居ろよ。」
今まで掴まれていた手首を、唐突に放され告げられた言葉に、菊は首を傾げた。
「逃げるなよ。後ろから離れたら殺すからな。」
何を偉そうに、この若造が。
菊は内心罵ったが、彼の強さは判っている上に、刀が彼の手にある今刃向かうのは得策ではない。
黙って彼の後に続いた。
「あ、アーサー!」
「アーサー、遅かったやん!てかうしろにおる子誰?」
船に入ると異国の言葉で二つの声が降り注いだ。
「連れていく。」
「は?君何言ってるの、アーサー」
「その子日本人やんなぁ?」
「ああ」
「君の持ってる"カタナ"だっけ?を見ると、その子君に刃向かったんじゃないのかい?」
「………」
「君はもちろん俺達のルール知ってるよね、キャプテン」
菊は異国の言葉はわからないものの、自分の事が話されていることくらいは判る。居心地が悪い。
「アントーニョ、船出せ」
「え、ちょ、いいん?」
「アーサー!」
「煩いぞアル、早く持ち場につけ」
「はぁ…はいはい。キャプテーン」
「あ、そうやアーサー!はい、これ」
話しかけてきた二人との話を無理矢理終わらせた(ように菊には見えた)アーサーと呼ばれていた翡翠の瞳の彼は
彼がアントーニョと呼んだ青年から何かを受け取り、こちらへ振り向いた。
「俺が、この船のキャプテンだ」
アントーニョから受け取った、まさに海賊の船長帽を被った彼が、例の宝石のような翡翠の瞳で菊を見下ろしていた。
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