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翔龍「あぁ…当たり前だ」
翔龍は手にしている盃を傾け、酒を飲み干し、キッパリと言い切る。
永琳「姫様、まだそうと決まった訳では…」
翔龍の口から輝夜の名前が出た時から俯いていた永琳が顔を上げ、不安げな表情で言う。
輝夜「永琳は黙っていなさい」
輝夜は翔龍を見据えたまま、話の流れを断つかの如くピシャリと言い放つ。
輝夜「そう……」
輝夜はそう確認すると、静かに目を閉じた。
輝夜「じゃあ…
「学校で普通に習ったしな」
……へ?」
永琳「えっ?」
はっきりと聞こえたその言葉に、二人から間抜けな声が上がる。
翔龍「あぁ…こっちの世界じゃ寺子屋か?」
翔龍は二人を横目で見ながら、思いだしたように言う。
永琳「……ふぅ」
永琳は緊張が溶けたような顔で、安堵のため息をついたのに対し、一方の輝夜は…
輝夜「えっ?もしかして私の早とちり…?」
二人を交互に見比べ、ただただ、困惑するだけだった。
―――
―――――…
翔龍「つまり、俺を月の追っ手と勘違いしたと……そういうことか」
ため息をつく翔龍。その顔には、若干の呆れが混じっているように見えた。
輝夜「う゛…ごめんなさい…」
謝る輝夜には、先程の威厳も高貴さも消え、もはやただの少女だった。
翔龍「別に、責めてる訳じゃない…」
翔龍はそう言うと一息つき、静かに弧を描く月を見上げた。
翔龍「少し、驚いた…ただそれだけだ」
そう言うと、翔龍は輝夜に向き直り、少しだけ、微笑んだ。
輝夜は頬をほんのりと赤く染め、若干ぎこちないながらも翔龍に向かってはにかんだ。
翔龍「なぁ…輝夜が禁忌の蓬莱の薬を飲み、不老不死になって、月を追放された…のは分かる。
だが、月に…過去に未練はないのか?」
翔龍が何処からか持ってきた酒瓶から酒を注ぎ、一口呑み、ポツポツと言う。
永琳はいつの間にか宴会場に行ったようで、縁側には二人だけだった。
翔龍は、なおも離れて行く永琳の背に向け、声を飛ばす。
翔龍「永琳!」
そして、宙に酒瓶が飛ぶ。
パシッ!
永琳は振り向き、投げられた酒瓶をキャッチした。
そして驚いた顔になり、二人を見て笑顔をなって騒ぎの中に消えていった。
…二人を見た時の永琳の笑顔は、ひどく、寂しげに見えたが。
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