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「ハ、ハ―――ア」
淡い日の光が森の木々の間を差し、木漏れ日となって薄暗く森を照らす。
「ハ、ア―――っく、なんで、こんな―――!」
その薄暗い森の中、一人の少女は薄い垢の髪を揺らし、必死に走る。
その恰好はあまり運動に適してなく、黒のスカートに赤の長袖という派手ないでたちだ。
なぜ少女は走るのか。
ドドドドド―――
その理由は少女の後ろ、距離にして30メートルぐらい離れたところから少女を追う、巨大な熊。
否、それは“熊のような”モノである。
熊はもともとから凶暴な出で立ちをしているが、少女を追っている“モノ”はもっと凶暴な出で立ちをしている。
四本の太い腕、背中に生えるいくつもの漆黒の棘。
この世界ではこの“モノ”のことをグリズリーマザーという。
「ハ、ハ、なんで、魔物が―――」
生物の系統に当てはまりながらも、活動するエネルギーに生命力を使わない“モノ”。
それらすべてをまとめあげた言い方が“魔物”だ。
「グルォォオォオ!」
魔物が吼える。
それは追いかけっこに痺れを切らした鳴き声。
魔物のスピードは、ここにきて倍となる。
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