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「あ、いつの間に」
どうやら少女は怪我に気づいていなかったようだった。
無理もない。先ほどまで、脳内麻薬により自身の限界を超えて体を酷使したのだから。
怪我はけして浅いものではない。走るのに適さない長い黒のスカートを裂いてその傷は出来ている。スカートがなければもう少し深い怪我だっただろう。
「まぁ、大丈夫よ。これぐらいなら」
「そうか。そいつは良かった。治癒は専門外だからな」
少年――――エリアスはどうでもよさげにそう言った。
「…………その、えっと」
少女はエリアスに近付いて、視線を泳がせながらモジモジと体を揺らした。
「なんだ?」
「…………ありがと」
恥ずかしいのか、少女は俯きながらそう言った。しかし、俯いた顔は紅潮しながらも笑顔だった。
「なんだ、礼か。便意でも催したのかと思った」
残念そうなため息が森に木霊した。
「あんたバカ!?」
少女が顔を上げて叫ぶ。顔は俯いていた時よりも赤い。
「命の恩人に向かってバカとは、これまた大層なことで」
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