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「リトのお母さんですか?はじめまして、俺はレナード・ヴァンデッドといいます」
レナードは爽やかな笑顔で、リト母の手を両手で包むように握る。リトはその先程までとの変わりようを、ただ目を丸くして眺めていることしかできなかった。
「リトには助けてもらい、本当に感謝しています。後で必ずお礼をさせてください。あ、つまらないものですが、どうぞ」
そう言って、レナードはリト母にどこからか取り出した林檎を渡そうとする。それはリトも見覚えのあるもの──というか、つい先程見たものと同じだった。
「って待てコラ!それどうせまた傷んだ林檎だろ!つか何個盗ってんだお前!」
リトはレナードの手を林檎ごとはたいた。床に叩きつけられた林檎は、砕けて再び果汁で床を汚した。
「こら、リト!あんたせっかくレナードさんのくれた林檎をダメにして!」
リトは正しいことをしたと胸を張って言える。それなのに自分の母親に叱られてしまった。傷んだや、盗んだというリトの言葉は、耳に届いていなかったらしい。
「いや、お母さんよく聞け!その林檎はなぁ──!」
「すみませんねぇ、レナードさん。後で叱っておきますから……」
やはりリトの言葉を全く聞いてはいない──というよりは届いていないようで、リトの母親はレナードに謝った。
「いえ、気にしないでください。……俺、どうやら嫌われているみたいですから」
謝られたレナードは明るく笑って見せるが、少し俯いてどこか悲しげに呟いた。悪いことはしていないはずなのに、その表情はリトの胸に僅かな罪悪感を抱かせた。
「リト!ほら、レナードさんに謝りなさい!」
リトの母親が注意をしようと、リトの方へと顔を向けるため後ろを見た時、リトにだけ分かるようにレナードは不敵な笑みを浮かべた。
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