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闇のように暗い空を、遠くで鳴り響く雷が照らし、分厚い雲を浮かび上がらせる。ここは魔界──魔族達が住む世界である。
そしてその奥にある、小高い丘の上に建つ、魔王の住む魔王城。物語の始まりは、この魔王城の中で起こっていた。
その物語の始まりの中心人物となっていることは知らず、一人の青年が扉の前に立ち、二度軽くノックする。
「入れ」
部屋の中から聞こえてきた威厳を感じさせる声に、青年は気ダル気ながらも扉を開けて中へと入る。
「いきなり呼び出して一体何の用だ、オヤジ」
こじんまりとした執務室のような部屋の中に入って早々、いかにも面倒臭そうに目を細めながら青年はその部屋の主に訊ねた。
肩くらいまでの長さの僅かに跳ねっ気のある銀髪。紅い色の眼で、目付きは鋭い。服装は両脇腹と袖に、一本づつチェーンのような飾りがついた黒いコートと、下は黒のジーンズに黒のブーツと黒づくめ。顔立ちは整っていて美形だ。
「うむ、用というのは他でもない。お前に私の跡を継がせようと思う。が、一つ問題がある」
青年の父で魔王であるその男は、椅子に座って手を組み、自分の息子を睨む。黒いローブに身を包み、牛骨のような仮面をつけていて表情は分からないが、青年は嫌な予感がし、それを隠すことなく表情に出してため息をついた。しかし、魔王はそんなレナードに構わず続ける。
「お前はめんどくさいと言って、いつも鍛練を怠ってきた。故にお前はレベル1!そんな者に、魔王は継がせることはできない!」
机を強く叩く魔王を見て、やっぱりと青年は思った。どうやって切り抜けようかと考えている青年に構わず、魔王は続ける。
「というわけで、お前は現世に行って、レベル上げしてこい、レナード!」
青年──レナードは、魔王が不意討ち気味にその足下に作ったゲートの中へと、抵抗する間もなく引きずりこまれていった。
「ちょっ、待っ──うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
こうして、ドタバタながらも次期魔王のレベル上げの旅が始まった。
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