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「こらー!どこいったクソガキー!」
陽の光を浴びて輝く頭と、立派な顎髭が特徴的な、体格顔付き共に厳ついオッサンが何かを叫びながら走っていく。
それを横目に見ながら、レナードは道の脇にあった木の枝に寝そべるように乗り、林檎を食べていた。
「うるさいオッサンだ。おちおち林檎も食えやしない」
そう言いつつ、レナードは手に持っていた食いかけの林檎をもう一かじりし、味わうよう噛み締めていた。
実は先程のオッサンは道で露店を開いて林檎を売っていた者で、レナードはそこから林檎をパクって逃走、今に至るわけだった。
「うん、甘味より酸味が強いが、いい林檎だな。うまい」
林檎を完食したレナードは、追いかけてきた店主の姿がないことを確認して木から飛び降り、目的地に向かって歩き出す。
芯だけになった林檎を投げ捨て、空を見ながら歩いていくと、前方から先程の林檎屋のオッサンが歩いてくる。
「げ、ヤバッ!」
レナードはそのオッサンの姿を見つけるなり、近くにあった岩陰にすぐ隠れる。面倒事は避けたかった。
そんなレナードに気付くことなく、林檎屋のオッサンは不機嫌そうに、何かぶつくさ言いながら通りすぎていった。
「ったく、あのクソガキ。勝手に林檎盗っていきやがって。あれ傷んでたから、腹壊さなきゃいいがな……」
「……マジか?」
林檎屋のオッサンの呟きを聞いて、そういえば売り物と離して置いてあったなと考えた瞬間、レナードの腹から地響きのような重低音に似た嫌な音が鳴る。
「っ!……ト、トイレ~……!」
レナードは腹を抑え苦痛に耐えながらも、安息を得るために目的地へと急ぐ。
これは、傷んだ林檎で腹を壊すような次期魔王の、レベル上げの物語。
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