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顔立ちは整っていて美形──なのだが、顔を真っ青にして汗を額にいっぱい浮かべている今は、せっかくの美形が台無しだった。
服装は黒のコートのような服。薄手とはいえ、今の季節は春の中頃。こんな暖かな日に、暑くないのだろうかと思ってしまうような服だ。
もしかしたら尋常じゃない量の汗の原因は、服装なのではないかとリトは一瞬考えたが、それだけなら顔が青くはならないだろう。
「……そ、そこの少年……」
弱々しくリトに向かって手を伸ばす青年、レナードは、必死に声を振り絞る。伸ばした手は小刻みに震えている。
「な、なんだよ……!」
その様子に少し恐怖を覚えたが、少年と呼ばれたことに対してムッとしたことも手伝い、少し強気に返す。
「…………ト……」
「……ト?」
「……トイレ、貸してくれ……」
その予想外の言葉に、リトは呆気にとられる。だが、それと同時に何故顔色が悪いのか納得できた。
グゴギュルルルルルル……。
「うっ……!は、早くしてくれ……」
再び低く重々しい音が聞こえてくれば、レナードは更に顔を青くしてリトに頼む。顔が青くなりすぎて、実は死にかけ、もしくは死んで死後硬直したゾンビなのではと思うくらい真っ青だった。
しばらく呆気にとられていたリトだったが、徐々に状況を理解する。レナードを見てため息をつくと、手招きをして案内することにした。
レナードはそんなリトを見て顔を輝かせるが、再度鳴る腹に一層顔が青くなっていた。
そんなレナードの苦しみなど露知らず、空では二羽の鳥が優雅に飛んで鳴いていた。
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