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「泣くな泣くな」
笑顔だった五十嵐は、急に顔色を変えて、スーツのポケットからハンカチを取り出すと、それを三夜子に渡した。
「だって――」
泣くのはやめなければ――そうわかっていても、次々と涙が出てくる。三夜子は、ハンカチを握りしめた。
「女の人は必ずきれいになれます。それを発見してほしいんです」
涙を通して五十嵐を見た。彼は、落ちついた口調で続けた。
「そして、うれしくなってほしいんですって……言ったよね?」
三夜子は、じっと唇を閉じ、身をこわばらせた。彼はおぼえていたのだ。
「そういうこと」
五十嵐はさらっと言って、優しく微笑んだ。
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