689人が本棚に入れています
本棚に追加
会場につく頃には、もうとっぷりと日が暮れていた。
二人は、照明が美しく輝く、御影石でできた奥行のある正面階段をのぼった。彼は三夜子をエスコートして三段目に足をかける。
「おそいじゃないか」
顔半分をヒゲでおおわれた、たくましい男が二人に近づいてきた。五十嵐と同じく、体に合ったタキシードを着ていた。だが、少し凝ったデザインだ。彼は五十嵐より背が低く、体は少し厚みがあった。
「すまない、樋口」五十嵐は三夜子より一歩先を踏み出して、男に近づいた。
この人が樋口一夫なのか、と彼女は思った。三夜子は、きょとんとした顔で五十嵐の後ろからのぞいた。
「あまり、こういった場所は苦手でね」
五十嵐は樋口と握手を交した。
「お前がいないと華がないさ」
樋口は、微笑んで五十嵐と軽く抱き合った。そして、三夜子と目が合うと、にやりと笑い、言葉をつないだ。
「ずいぶんと美しい彼女だな」
彼は五十嵐の耳元でささやいた。
最初のコメントを投稿しよう!