#2スチールメーキャップ

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 昨夜の出来事を思い出したくはなかった。だが、考えれば考えるほど、絵を上からなぞって描くように、更に鮮明になっていく。そして、どこへも追いやれないいらだちが、三夜子の歩く足を速くさせた。  やはり、にじみ出た汗で、スキニーデニムは脚にぴたりとくっついた。グレー地に黒のロゴ入りタンクトップに栗色の髪がふわりとかかる。向かい風を使って髪をかきあげて歩いた。  学校に着くと、エレベーターのボタンを押して、常備しているペットボトルの水をゴクゴク飲んだ。そして、口の端から流れ出た水を右手でぬぐう。 「……はう」  肩を落とし、深いため息をついた。 「男っぽいね」  後ろから声がして、三夜子は振り向いた。 「……ああ」  三夜子の眉間にしわが深く刻まれた。  そこには、五十嵐が立っていた。さわやかなブルーの細かなストライプシャツは、この日も襟元のボタンが二つ外されている。黒のズボンをシルバーとブラックが混ざったメッシュベルトでしめていた。彼は手元の資料に視線を落とし、穏やかな表情を浮かべた。 「いまどきの子って、元気がいいんだね」
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