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昨夜の出来事を思い出したくはなかった。だが、考えれば考えるほど、絵を上からなぞって描くように、更に鮮明になっていく。そして、どこへも追いやれないいらだちが、三夜子の歩く足を速くさせた。
やはり、にじみ出た汗で、スキニーデニムは脚にぴたりとくっついた。グレー地に黒のロゴ入りタンクトップに栗色の髪がふわりとかかる。向かい風を使って髪をかきあげて歩いた。
学校に着くと、エレベーターのボタンを押して、常備しているペットボトルの水をゴクゴク飲んだ。そして、口の端から流れ出た水を右手でぬぐう。
「……はう」
肩を落とし、深いため息をついた。
「男っぽいね」
後ろから声がして、三夜子は振り向いた。
「……ああ」
三夜子の眉間にしわが深く刻まれた。
そこには、五十嵐が立っていた。さわやかなブルーの細かなストライプシャツは、この日も襟元のボタンが二つ外されている。黒のズボンをシルバーとブラックが混ざったメッシュベルトでしめていた。彼は手元の資料に視線を落とし、穏やかな表情を浮かべた。
「いまどきの子って、元気がいいんだね」
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