竹林で~後編~

4/4
前へ
/813ページ
次へ
 思わず声を出しそうになって、体が仰け反った。  全ての地蔵の視線が俺に向いているような錯覚に襲われるが、違った。  同じ方向を向いてはいるが、俺じゃない。  そおっ…と地蔵達が向いている方向を確認すると、そこには小屋を支える大きな梁があり、人一人くらい裕にぶら下げることが出来るであろう頑強さに、そこに何があったのかを容易に想像する事ができた。  そう、彼女はここで……  酔いと悪寒で吐き気が込み上げ、口元を抑える俺の耳に、小さく……しかしハッキリとした声で、 「おかあさん?」 という声が聞こえてきた。  思わず振り向くと、小屋の入り口に見える小さな影。忘れもしない小学校の同級生だった―― ―― O君 ――  まん丸の目を、キュッと音がしそうなほどハッキリと歪め、次の瞬間に何が起ころうとしているのかを瞬時に理解した俺は、絶叫が響き渡る竹林を耳を塞いで転げるように逃げ出していた。  どうやって抜け出したのか、あれが現実だったのかはもうわからないが、ゲェゲェと吐きながら、いつもの家路を不確かな足取りで帰ったのは覚えている。
/813ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4108人が本棚に入れています
本棚に追加