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「これは果たしてアナタにとって喜ぶべき事なのか、はたまた悲しむべき事なのか、もしくは忌むべき事なのかは分らないが……」
男は愉しそうだ。
とてつもなく愉しそうな表情だ。
小さな子供が沢山のお友達と一緒になって遊ぶ時の表情と何ら変わらない表情だ。
――けれど違う。
「だが、少なくともこれは真実だ。今、アナタはコレの前に――我が儀式魔術法陣の前にいる。“観下ろす”為にそこにいる」
男は悲しそうだ。
とてつもなく悲しそうな表情だ。
小さな子供が親とはぐれて一人ぼっちになった時と同じような表情だ。
――だけども違う。
「それは真実だ。アナタがアナタである以上、これは真実だ。何故ならアナタは読者だからだ。読者である以上、読者でしかないからだ。読み解くからにはステージ外に立つしかないからだ。それしか出来ないからだ」
男は不満そうだ。
とてつもなく不満そうな表情だ。
小さな子供が小さい故に一人では何も出来ないと気付いた時の表情と何ら変わらない表情だ。
――より一層違う。
「それしか出来ない――それでいいのか?我々はステージの外側にて舞踏を眺めるだけの観衆として何ら疑問も挟む事無く有限なる時を過ごせと言うのか?」
男は怒っていそうだ。
とてつもなく怒っていそうな表情だ。
小さな子供が何も疑う事なくやるべき事を突き進もうとしてそれを邪魔された時の表情と何ら変わらない表情だ。
――違うにも程がある。
「イヤだね、少なくとも自分という我が侭で身勝手で無責任な自分という存在はそれを――断固拒絶する。だからアナタ、アナタを含む読者達にはこの存在(自分)の為の――捨て駒になって貰う」
何もかもがそうであり、何もかもが違っている。
何もかもがそうではなく、何もかもが違っていない
故に――分らない
「無論、拒否権もある。こう見えてこの存在は文明人なんでね、クズでゴミな存在だが自分はアナタと同じ時代を生き、空を眺め風を受ける文明人だ。自由は尊重する。まあ、表層上だけ眺めて行くのも悪くない、“そういう風に観てもちゃんと大丈夫なようにコレは作ってある”から問題ない」
男はそこでマウスから手を離して今度はキーボードへと手を伸ばした。
笑みは、もう無い
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