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“彼”の服装はシンプルなまでに黒で統一された一見、カソック服のようだが、ところどころにまるで回路のような白い線が刺繍されており、更に頑丈そうなブーツに手袋まで付けているその姿はまるで戦闘に向かう人間が着てそうなソレであった。
「ここ、寝心地良かったんだがな……」
“彼”は周りをぐるりと見渡す。
上下左右、青と白の流れがゆっくりと渦巻き綺麗な螺旋を描いており神秘的な空間、だがそれだけしか無い空間
「ここが、か?」
ハセヲは趣味が悪い人を見るような瞳を“彼”に向けた。
綺麗ではある。
しかしとてもじゃないが、こんなところでぐっすりと寝られるような神経は持ち合わせていない
「ああ、何せ……」
そこで“彼”はゆっくりと上を見上げた。
何もない、相変わらず青と白の螺旋が渦巻くその上を――
「アカイ、アレを……見なくて済むから、な」
なんであろうか、何かとてつもなく重みを秘めた言葉(ことだま)――
知らず知らずの内にハセヲは黙ってしまう。
こうなっては此方からでは何か言い難い、例え自らが“彼”を追い掛ける為に“絢爛舞踏”になったとしても、未だに“彼”の全てを理解しきれてはいないのだ。
最終防衛機構――絶対存在であり“最後の希望”である“彼”を
「……さて、じゃ行くか、ハセヲ、お前は別の世界(場所)に行ってくれ」
「……は?」
いきなり何を言い出すんだこの男は的な表情をし、問い詰めようとしたが、その前に“彼”が手で制した。
「お前には第777独立世界に行って欲しい、そこであるブツを入手してきて欲しいんだ」
「第777独立世界って……マジかよ?」
「ああ、マヂだ」
「……スキマか?」
「いや」
「……巫女か?」
「違う」
「まさか⑨か?」
「もっと違う。てか、何故ソレが出る?」
そんな妙ちくりんなやり取りが暫く続いた後……
「……分かった。彼女にだな」
と、ハセヲは一人納得したように相槌を打った。
「ああ、まあ頼むぞ、出すのに躊躇ったらこう言ってやれ、今度、俺様謹製和・洋菓子スーパーフルコースと、第7世界が誇る最高の月見酒をくれてやるとな、それで300%の確率で落ちる」
「……了解、無理すんなよ」
その言葉を最後になんとハセヲはこの空間より、まるで元から存在していなかったのように瞬きをする暇を無いまま姿を消した。
そしてただ一人残った“彼”は、再び上を見上げる。
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