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空はまだ明るい。
初夏のぎらぎらした日差しが入道雲の向こうに見える。
なのに、階段を下りるとまるで異空間のよう。
この穴蔵は深すぎて、日の光りが届かないのかもしれない、なんてぼんやり考えていた。
薄暗い中、白い床とソファが淡く光って見える。
真面目な大学生だった私は、初めての場所にただただ驚くばかりだった。
「キャバクラ」なんて…まさか自分が関わる言葉だなんて思ってもいなかったのだから。
くまなく磨かれたガラスのテーブルに書類を差し出される。
汗をかいたグラスが、暑そうにからんと呟いた。
「じゃあ、千佳ちゃん。源氏名どうしよっか?」
スーツを着崩した若い男が、中身のない笑顔を向ける。
「初めてなんで…よく分からないです。何でもいいです。」
「そうだなぁ…鈴華は?スズカ。それなら被らないし、サ行の子少ないから。」
「分かりました。」
そんな感じで、簡単に「鈴華」が生まれた。
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