「酒と女と葬儀屋と」第一幕 ノ 一

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 扇都は一人になると椅子に浅く腰掛け、礼の品を手に取る。  布を取ると一升瓶が姿を現した。 「ふむ……酒か」  しばらく眺めたあと、扇都は椅子から立ち上がり近くの棚を漁り始めた。 「……む……肴は無しか」  扇都が独り言を呟きながら棚を漁っている頃、机の上では異変が起きていた。  何も無い空間から手が生えて、何かを求め指先が右へ左へと彷徨っていたのだ。 「肴が無いのは仕方ないか。それにしたって――」  彷徨っていた手が一升瓶を捉える。 「人の酒に手を出すのは意地汚いんじゃないか?」  謎の手が一升瓶を掴んだ瞬間、扇都の放った猪口が手を痛打していた。  一升瓶を離しぷるぷると小刻みに震える手。  小さいとはいえ、陶磁器が直撃した痛みは相当なものだろう。ちなみに猪口は巧いこと机の上に乗っている。  謎の手を掴み引っ張る。手袋を嵌めたそれは華奢で、一目で女性のものだと判った。  近くまで来て分かったが、どうやらこの手は空間に空いた「穴」から生えているようだ。 「いたた……ちょっと、引っ張らないでよっ」  「穴」から声と共に金髪の女性が這いずり出てくる。上半身のみ。 「乱暴ねぇ、貴方……」 「泥棒に言われたくは無いセリフだな」 「失礼ね。ちょっと借りようと思っただけよ」 「返す予定は?」 「無いわ」  金髪の女性は悪びれもせずキッパリと言い切った。
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