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扇都は一人になると椅子に浅く腰掛け、礼の品を手に取る。
布を取ると一升瓶が姿を現した。
「ふむ……酒か」
しばらく眺めたあと、扇都は椅子から立ち上がり近くの棚を漁り始めた。
「……む……肴は無しか」
扇都が独り言を呟きながら棚を漁っている頃、机の上では異変が起きていた。
何も無い空間から手が生えて、何かを求め指先が右へ左へと彷徨っていたのだ。
「肴が無いのは仕方ないか。それにしたって――」
彷徨っていた手が一升瓶を捉える。
「人の酒に手を出すのは意地汚いんじゃないか?」
謎の手が一升瓶を掴んだ瞬間、扇都の放った猪口が手を痛打していた。
一升瓶を離しぷるぷると小刻みに震える手。
小さいとはいえ、陶磁器が直撃した痛みは相当なものだろう。ちなみに猪口は巧いこと机の上に乗っている。
謎の手を掴み引っ張る。手袋を嵌めたそれは華奢で、一目で女性のものだと判った。
近くまで来て分かったが、どうやらこの手は空間に空いた「穴」から生えているようだ。
「いたた……ちょっと、引っ張らないでよっ」
「穴」から声と共に金髪の女性が這いずり出てくる。上半身のみ。
「乱暴ねぇ、貴方……」
「泥棒に言われたくは無いセリフだな」
「失礼ね。ちょっと借りようと思っただけよ」
「返す予定は?」
「無いわ」
金髪の女性は悪びれもせずキッパリと言い切った。
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