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「……もういい。分かったから帰ってくれ」
「…………」
肩を落とす扇都を不思議そうな目で女性は見続けていた。
「……? 俺の顔に何か付いてるか?」
「いいえ。ただ変わった中身をしてるから見てただけよ」
「中身?」
「ええ」
女性の指が扇都の左胸に触れる。
「こんなに『ぐちゃぐちゃに溶かして混ぜたもの』を無理矢理詰め込んでるんですもの。こんな面白い人間は初めて見たわ」
「……お前、どこの妖婦だ?」
「それは誉めてるのかしら?」
「少なくとも良い意味ではないな」
空間に「穴」を開けて現れている時点で、人間でないことは分かっていた。
だが、「中身」まで見抜くほどの妖(あやかし)は今まで居なかった。
自然と扇都の口の端が吊り上る。眼つきは真剣そのもの。
人は危機や窮地に立つと、無意味に笑ってしまうということだろう。例外もあるだろうが。
「別に警戒する必要は無いわ。取って食おうとは思ってないから」
「そう言われて簡単に切り替えれるほど便利な人間じゃないんでな」
「そう。まぁいいわ」
女性は一升瓶の栓を開け、自分の手を叩いた猪口に少し注いだ。
「一升瓶に猪口は合わないわね」
「普段は一升瓶なんて買わないからな。それ位しかないんだ」
扇都の言葉を聞いているのか聞いていないのか、女性は猪口の中身を一気に煽った。
「……ふぅ。意外とおいしいわね」
「……」
「早く用件を済ませろって顔ね」
「分かるか?」
「ええ」
「じゃあ早く済ませてくれ」
扇都は溜め息を吐きながら自分の方に椅子を引き、腰掛けた。
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