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僕はジム・ブラッキン10歳。
人は僕を”神童”と呼ぶ。
実は僕も時々自分は天才ではないかと思う。
なのにパパとママは「おまえなんて天災だ!」っていつもぼやいてる。確かに今回の事は少しやりすぎたかな、と思う事もあるけれど、そんな事で国にいられなくなるなんて、どう考えたって大袈裟だ。
僕はただあの指揮者が大嫌いだったんだ!名前も思い出したくないくらいだ。
国で一番エライ音楽家だというヤツは僕に言った。
「君にはテンポ感ってのがないのかね。カンタービレになると遅くなり、リズミックになるとどんどん速くなる。ポケットにメトロノームでも入れておいたらどうかね。オーケストラは君の気まぐれに付き合ってるほど暇じゃないんだ!」
僕は脇に抱えたヴァイオリンで奴の禿げ頭を殴ってやりたかったけれど、ママから
「音楽の事で大人に何も言ってはいけません。言ったらお小遣い抜きよ!」
と耳にタコができるくらい言われ続けているので、それはかろうじて我慢する。
でも、僕にしてみたら、あんな美しいメロディを平気でポンポン弾く方がどうかしてるし、アパッショナータでエキサイトしない人間なんて冷血漢以外の何者でもないのだ。
「不感症ジジイ」「不感症ハゲ」と奴の背中に向かって心の中で何度も呟いてるうちに、つい閃いてしまった。
楽屋に散らかっている紙に大きく『不感症』と書いて、舞台に出る寸前に奴の背中に貼り付けてやったんだ。
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