8.父の死

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NYに戻っても僕は演奏活動に復帰できなかった。 いや、それどころか家中のバイオリンをナイフで壊してしまった。 世の中の美しいもののすぐ後ろには醜悪な姿が隠されている。 道を歩く人や飼い犬を見ても、緑色のセントラルパークを見ても、建造物や彫刻を見ても、僕には一皮剥いた剥き出しの醜悪な正体が見えた。 とんでもない偽善に満ち溢れている。 すべては神の魔や化しだ。 そして皮膚という美しい衣にごまかされている自分。 僕はナイフで自分の腕の皮をこそげた。 僕は母のいる病院の精神病棟に入院させられた。
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