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入院中はカウンセリングと作業療法に費やされた。
ひどいPTSDだと診断されたが、ルドは自分が傍にいれば僕を遺体確認に向かわせなかったと、剛毅な彼には珍しく後悔していた。
そう、この“ブラッキンの背後霊”は未だに僕の傍にいる。
僕はもうヴァイオリンは弾かないからボンに帰ってくれと言ったのに、それでも「離れたくない」と言った。
勝手にすればいい。
彼は”女王”もどこかに隠してしまって、そのありかを僕に教えない。
時間の経過と共に、醜悪な姿が見える事はなくなってきた。
人間は人間に、木は木に見えるようになってきた。
そのかわりに僕は考えるようになっていた。
美の正体について、だ。
もう僕は表面的な美しさには誤魔化されない。
そんな折、ケン・マクガイヤーが病室まで見舞いに来た。
医大生になっても相変わらず派手な頭に鋭い眼光をしている彼は、エロ本をいっぱい携えてやって来た。
「暇してるだろうって思ってさ」
彼はニヤニヤ笑っていたけれど、どうも僕の様子が変だと気付いて目を覗き込んだ。
「お前、これ見て発情しないの?」
「しない」
僕の返事に彼は本気で驚いたようだった。
でも本当に、僕は事故以来女の事なんてこれっぽちも考えなかったし、今、女の裸を見たところで何も感じない。
「お前も世界中でやりまくって、写真じゃ何も感じなくなったんだな」
何とでも言え。
「人間なんて醜悪じゃないか」
そう呟いた僕に、彼は明快な返事をよこした。
「何言ってんだ!醜悪の中にこそ美はあるんじゃないか!」
「……」
「お前が何を見たか知らんが、同じ物を見てそれをくっつけようと必死になってた奴らもいたはずだ」
確かに医者の数が足らないほどだった。
「美人の看護師がちょんぎれた腕を持ってなかったかい!」
僕とそんなに年の変わらない女看護師もいた。
「誰も気持ち悪いなんて思ってないぞ」
「……」
「よし、行こう!」
彼は僕の腕を引っ張った。
「どこに?」
「この世の中で最も醜悪なものを見に!」
「何?」
「決まってんじゃない。女のアソコだよ」
僕は彼に促されるままにジープに乗り込んだ。
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