8.父の死

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「ああ、上手。アソコがぴくぴくする」 わかっている。官能的な演技で少しでも早く僕を終わらせたいのだろう。 でも……。 「ねぇ、触って」 喘ぎながら言う女に決り文句を言ってやる。 「どこ?」 「言わさないで」 「どこ?言わないと僕にはわからない」 「○%▼※」 エロビデオの女優と同じ発音で女は禁断の言葉を歌った。 僕は無言で女のショーツの横紐を解くとそのまま彼女の股間を弄った。 指で行ったり来たり……。薬で濡らしているのかするすると指がすべる。 「見たい」 そう呟くと、女は僕を路上に座らせ、そして片足を僕の肩に乗せた。 長い両足の間に密生する黒いものを指でかきわけ、そしてその隙間から見えるものを凝視する。 薄暗くてよく見えない。 僕は彼女の肉襞を掻き分けて、その奥にあるものを覗き込んだ。 鮮血色のその部分が見えた瞬間、頭の中にヴァイオリンが鳴り響いた。 内臓だ。 これは内臓だ。 何百もの音が一度に鳴り響き、そして遺体安置所で見た鮮血がフラッシュバックした。 「うっ」 耐えられなくてその場に嘔吐した。 音が、ヴァイオリンの音が悲鳴のように僕に迫ってくる。 でも、何百と言う無秩序に思える音の中に、僕はかすかに聞きなれた音の列を見出だした。 ニ短調のスケール。 それもバッハだ。 今、全てが判明した。 子供の頃から僕の頭で鳴っていた「Re」は、そしてこのニ短調スケールは、『シャコンヌ』だ。 バッハの『シャコンヌ』の全ての音が、僕の頭の中で一度に鳴っている。 こみ上げてくるものを我慢できずに僕は吐き続けた。 『シャコンヌ』の全ての音が、四方八方から僕に迫ってくる。 「なに、こいつ……」 女は地に唾を吐きかけて、足早にどこかに消えて行った。 吐くものがなくなってもこみ上げてくる、その苦しさから逃れようと地面を叩きまくる。 「ジム!」 ルドの声がした。 心配で後をつけてきてたのだろう。 「大丈夫か?」 そして僕に駆け寄ると、大きな手で背中を擦ってくれる。 そんな所にケンがやってきて叫んだ。 「お産が始まった!手伝ってくれ!」 お産? そして僕が吐瀉物まみれになっているのを見て言った。 「お前もつわりか?」?
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