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「ああ、上手。アソコがぴくぴくする」
わかっている。官能的な演技で少しでも早く僕を終わらせたいのだろう。
でも……。
「ねぇ、触って」
喘ぎながら言う女に決り文句を言ってやる。
「どこ?」
「言わさないで」
「どこ?言わないと僕にはわからない」
「○%▼※」
エロビデオの女優と同じ発音で女は禁断の言葉を歌った。
僕は無言で女のショーツの横紐を解くとそのまま彼女の股間を弄った。
指で行ったり来たり……。薬で濡らしているのかするすると指がすべる。
「見たい」
そう呟くと、女は僕を路上に座らせ、そして片足を僕の肩に乗せた。
長い両足の間に密生する黒いものを指でかきわけ、そしてその隙間から見えるものを凝視する。
薄暗くてよく見えない。
僕は彼女の肉襞を掻き分けて、その奥にあるものを覗き込んだ。
鮮血色のその部分が見えた瞬間、頭の中にヴァイオリンが鳴り響いた。
内臓だ。
これは内臓だ。
何百もの音が一度に鳴り響き、そして遺体安置所で見た鮮血がフラッシュバックした。
「うっ」
耐えられなくてその場に嘔吐した。
音が、ヴァイオリンの音が悲鳴のように僕に迫ってくる。
でも、何百と言う無秩序に思える音の中に、僕はかすかに聞きなれた音の列を見出だした。
ニ短調のスケール。
それもバッハだ。
今、全てが判明した。
子供の頃から僕の頭で鳴っていた「Re」は、そしてこのニ短調スケールは、『シャコンヌ』だ。
バッハの『シャコンヌ』の全ての音が、僕の頭の中で一度に鳴っている。
こみ上げてくるものを我慢できずに僕は吐き続けた。
『シャコンヌ』の全ての音が、四方八方から僕に迫ってくる。
「なに、こいつ……」
女は地に唾を吐きかけて、足早にどこかに消えて行った。
吐くものがなくなってもこみ上げてくる、その苦しさから逃れようと地面を叩きまくる。
「ジム!」
ルドの声がした。
心配で後をつけてきてたのだろう。
「大丈夫か?」
そして僕に駆け寄ると、大きな手で背中を擦ってくれる。
そんな所にケンがやってきて叫んだ。
「お産が始まった!手伝ってくれ!」
お産?
そして僕が吐瀉物まみれになっているのを見て言った。
「お前もつわりか?」?
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