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「どっちがパパなの?」
素っ頓狂な女の声に音が途切れた。
「え?」
ルドヴィと僕が同時に顔を上げると、怒った顔の女の子が立っていた。
「産む時くらいちゃんとパパしてよね~。本当に種馬よりヒドイ男!」
「いや、僕達は……」
ルドが否定するけれど女の子は続ける。
「エナが絶対に男には妊娠を知らせないって言うから心配してたけど、最後の最後で登場してくれて本当に良かったわ!」
「え?赤ん坊の父親はこの事知らないのか?」
ルドが言った。
「あら、あなた達じゃなかったの?ごめんなさい」
「いや、でもまた何で知らせないんだ?」
「相手が結婚してるからでしょ!決まってるじゃない!まぁ、愛人の美学ってやつね」
「……」
「逆に言えば、愛人の妊娠にすら気付かない”とんでもバカ”には言っても無駄だってことよ」
僕は訊ねた。
「ケンはここで何してる?」
「産婆のお手伝い。ここは自分で産む子が多かったんだけど、彼が助産師さんを紹介してくれて、ついでに助手をしてくれているの。医学生だし親切だから、心強いって好評よ」
よくわかる。
最初はここの客だったのが、成り行きで手伝うようになったのだろう。
今は学生だから大した事はできないけれど、これからどんどん彼のできる事も増えてくる。
その時に扉が開いてエプロンをつけたケンが顔を出した。
「産婦がジム・ブラッキンのフアンなんだとよ!中で何か芸でもしてやってくれよ」
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